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福岡高等裁判所 昭和44年(ネ)749号 判決

控訴人 片岡砂吉

右訴訟代理人弁護士 山中伊佐男

被控訴人 古瀬善吉

右訴訟代理人弁護士 黒沢平八郎

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は「控訴人の控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

一  被控訴人主張の請求原因事実は、準消費貸借上の債務の利息および遅延損害金の約定の点を除き、その余の事実について、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、被控訴人主張の如く利息月一分五厘、遅延損害金月五分九厘の約定がなされたことが認められる。

二  そこで、控訴人の時効の抗弁につき判断するに、

(一)  ≪証拠省略≫を総合すると、つぎのような事実、すなわち、

(1)  控訴人は昭和三三年三月上旬頃、訴外第一金融株式会社が長崎市城山町に所有していた城山名画劇場を買受けて、同所で映画館業の経営をしようと考え、同月一三日、右訴外会社より同劇場を代金四〇〇万円で買受ける旨の売買契約を締結した。

(2)  しかし、右契約に際し、訴外会社に支払うべき手付金四〇万円がなかったため、被控訴人の三男である古瀬巌を介して、被控訴人に対し右事情を述べて、右手付金に必要な金四〇万円の借用方を申込んだところ、被控訴人は控訴人が映画館経営のため、前記劇場を訴外会社から買受けるものであることおよびその手付金に使用するものであることを熟知しつつ、その資金にするため、同日、金四〇万円を控訴人に貸与したこと、

(3)  その後、同年五月下旬頃、被控訴人は、さらに控訴人から前記劇場経営の準備資金の必要上、金二〇万円の貸与方を申込まれたので、さらにその資金として、金二〇万円を控訴人に対し追加して貸付けることにしたが、先に貸付けた金四〇万円につき借用証の差入れがなされていなかったので、この際前記貸付金と追加貸付の分を一口にまとめることとし、同年六月一日、被控訴人において、前記貸付金四〇万円につきその貸付日から六月一日までの利息を金一万円とし、さらにその貸付のため要した費用金七〇四円をも含めて、これを金四一万〇七〇四円とし、これに追加貸付分金二〇万円を加えて、元金六一万〇七〇四円とする準消費貸借契約を締約すべく控訴人に申込んだところ、控訴人において劇場経営資金の必要上これを承諾し、同日、金六一万〇七〇四円の借用証を差入れたので、同日、被控訴人において控訴人に対し金二〇万円の追加貸付をなし、かくて本件準消費貸借が成立したこと、

が認められる。

(二)  ところで、営業として商行為を営まんとする者が、その営業開始前営業開始の目的をもって、その営業の準備行為をなしたときは、その準備行為によってその営業意思を実現したものであるから、その営業開始前であっても、その者がなした当該営業準備行為は、商人の営業のためにする行為にして、附属的商行為となるものと解すべきであるところ、前記認定の事実からするとき、控訴人がなした本件消費貸借ならびに準消費貸借契約は、いずれも、控訴人が映画館営業を営む目的をもって、その営業準備として劇場を買受けた際、その買受け資金として借受け、さらに映画館開業の準備資金を被控訴人から借用する必要上なされたもので、いずれも、映画館営業の準備行為としてなされたものであることが明らかであるのみならず、被控訴人においても、その事情を熟知していたことが明らかであるので、本件控訴人の債務は、控訴人の商行為によって生じた債務として五年の消滅時効にかかるものというべきである。

(三)  しかして、本件債務の弁済期日が、昭和三三年七月一〇日であったことは当事者間に争いがなく、控訴人が昭和四五年六月三日の当審第二回口頭弁論期日において、右消滅時効の援用をなしたことは本件記録により明らかである。

そうすれば、被控訴人の本件債権は、右昭和三三年七月一一日から五年を経過した同三八年七月一〇日限り、時効により全部消滅したものといわなければならず、控訴人の抗弁は理由がある。

三  以上のとおりであるので、被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきところ、これを認容した原判決は失当であって、本件控訴は理由があるのでこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高次三吉 裁判官 弥富春吉 原政俊)

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